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大阪地方裁判所堺支部 昭和62年(ワ)1433号 判決 1988年9月28日

原告 西下正也

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 金子武嗣

右同 森下弘

被告 平和土地建物株式会社

右代表者代表取締役 西下正義

右訴訟代理人弁護士 道工隆三

右同 井上隆晴

右同 柳谷晏秀

右同 青本悦男

主文

一  被告会社の昭和六二年一二月二六日の定時株主総会における第三一期(昭和六一年一〇月一日から昭和六二年九月三〇日)決算報告書のうち貸借対照表、損益計算書及び損失の処理に関する議案を承認する旨の決議を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

1  請求原因

1 原告らは、被告会社(資本金二〇〇〇万円)の株主である。

2  被告会社は、昭和六二年一二月二六日大阪市天王寺区北河堀町四―一五西下胃腸病院二階において、定時株主総会(以下「本件総会」という)を開催し、請求の趣旨記載の決議(以下「本件承認決議」という)をなした。

3  しかし、本件総会の招集手続には次の瑕疵がある。すなわち、右総会の招集通知には、商法二八一条一項に定める貸借対照表、損益計算書、営業報告書、損失の処理に関する議案(以下「本件計算書類」という)が添付されていなかった。

4  よって、本件承認決議の取消を求める。

二 請求原因に対する認否と被告の主張

1 請求原因1、2の事実を認める。同3のうち本件総会招集通知に本件計算書類を添付しなかったことは認め、その余の主張は争う。被告会社のような資本額が一億円以下の株式会社(以下「小会社」という)では、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という)二五条により商法二八三条二項の適用が排除され、本件計算書類の添付を要しないと解すべきであるから、本件総会の招集手続には瑕疵がない。

2 仮に瑕疵があるとしても、本件瑕疵は重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないから、本訴請求は、商法二五一条により裁量棄却されるべきである。すなわち

(一)  被告会社は西下家のいわゆる同族会社であって、これまで招集通知に計算書類を添付したことがなく、これにつき株主から異議が出たことがなく、原告らはここ数年株主総会に出席さえもしていなかった。原告らは、被告会社に事前に一言連絡すれば容易に計算書類を入手できたのに、これをなさず、本件総会に突如出席して本件瑕疵を指摘しただけで退席したもので、その所為は全くためにするものである。以上の事情からすれば、本件計算書類不添付の瑕疵は重大とはいえない。

(二)  原告らが有する株式数は合計七六〇〇株であるところ、被告会社の発行済株式は四万株で、原告らを除きその他の株主が全員出席(委任状による代理出席を含む)して本件承認決議がなされたのであるから、本件瑕疵が決議に影響を及ぼさないことは明らかである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2の各事実及び同3のうち本件総会招集通知に本件計算書類が添付されていなかったことは当事者間に争いがない。

二  ところで、被告は、商法特例法二五条が商法二八三条二項の適用を排除しているとの解釈のもとに、被告会社のような小会社では、本件総会招集通知に本件計算書類の添付を要しないと主張する。しかし、商法特例法は株式会社における監査等に関し商法の特例を定めるものであって、商法特例法二五条は、小会社につき同法二三条一、三項によって監査報告書の提出されるべき時期が商法二三二条一項の株主総会招集通知を発すべき時期以後となる場合も生じるように定められたことに対応して、同法二八三条二項のうち監査報告書謄本の添付に関する部分の適用を除外したものであって、計算書類を添付すべき部分までその適用を除外したものではない。そうすると、被告が本件総会招集通知に本件計算書類を添付しなかった点は、商法二八三条二項に違反することが明らかである。

三  さらに、被告は、本件計算書類不添付の瑕疵は重大ではなく、かつ、本件承認決議の結果に影響を及ぼさないものであるから、本訴請求は商法二五一条により裁量棄却されるべきであると主張する。しかし、商法が定時総会の会日以前に計算書類と監査報告書を本店等に備え置いて公示することを義務づけるほか、更に株主に対する総会招集通知に計算書類を添付すべき義務を規定したのは、単に公示させただけでは株主が計算書類の内容を十分に把握できず、その結果、株主総会で計算書類に関し株主による充実した審議を期待しがたいと予測されることから、株主に招集通知とともに計算書類を直接入手させてその内容について事前に検討する機会を確保し、これによって株主総会における計算書類に関する審議を実質化しようとする目的に出たものであって、現行法上、計算書類の確定と利益処分・損失処理の決定をする権限が株主総会に帰属させられていることを考えあわせると、計算書類不添付の瑕疵は重大でないとはいえない。被告の主張する(一)の事情が認められるとしても、右判断を左右するものではない。そして、瑕疵が重大でないといえない以上、右の瑕疵が決議の結果に影響を及ぼすか否かを問うまでもなく、本件承認決議の取消を求める本訴請求を裁量棄却することはできない。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 小林克美 符川博一)

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